- 修復依頼は要注意 ♥ -
figures : mizu
composition:eau
photos : eau
聖域 ――――――
暖かい日差しの午後 紫龍は白羊宮に向かっていた
「 聖衣の調整を 」
前から ドラゴンの聖衣のジョイントがかすかに軋み 気になっていた部分があった
聖域に旅立つ前日 思い切って ムウに相談してみた
丁度ムウも 今日から聖域での勤務だった
そして 他の聖衣を修正する仕事があるそうで
ついでに 紫龍の聖衣も見てくれることになった
聖衣に関しては ムウはとても厳格で
修正を頼むときは 紫龍ですら気を使う
あの時
初めて 聖衣の修復を依頼した時も
状況が切迫していたからでもあったが とても緊張したのを紫龍は覚えている
「 いいですよ 」
と 軽く返事をしてもらえた時、驚いた
でも 嬉しかった
そわそわと はやる気持ちを抑え 紫龍は白羊宮の階段を登った
白羊宮は 主であるムウの小宇宙が満ち、紫龍を優しく迎えてくれているようだった
奥から 修復中の音が聞こえる
澄み切った 金属音が近づいてくる
ムウの部屋
部屋の中は オリハルコンなどの放つ不思議な光に満ちていた
その光の中心に こちらに背を向けて作業中のムウがいた
嬉しい気持ちを抑えて 冷静に声をかける
「 ムウ 」
ハッとして ムウが振り向く
作業に集中していたのだ
むしろ 冷たいと感じるほど美しく張りつめた顔が ゆっくりほころんだ
「 来なさい 」
作業を中断し ムウは優美な仕草でその手を紫龍の方に差しのべた
その仕草を見ただけで 紫龍は自分の体温が1−2度上がったように感じた
ムウの部屋には 金の豪華な装飾で縁取られた 大きな鏡があった
その前へ立つように ムウに促され 従う
まずは 向かいあった形で ムウが聖衣を調べ始めた
大きな深い色の瞳が 紫龍の体を 頭の先からゆっくりスキャンする
時折 そっと美しい指先が 気になった場所に触れる
その度に 紫龍の胸の鼓動がどんどん高まる
悟られないように 平静を装い 黙って身を任せる
貴鬼と同様に もちろんムウも 聖衣の傷んだ部分を透視出来たのだっけ ―――
まるですべてを見透かされているようで 紫龍はとても恥ずかしくなってきた
「 前は問題ありませんね 」
ムウは 静かに微笑んでそう言った
音もなく ふわりと紫龍の後ろに回る
そして紫龍の目には 鏡に映った自分が飛び込んできた
もう頬が赤い
背後にムウが立っている
自分の背中に 彼の視線が注がれているのを感じる
背中が ジンと 熱くなる
「 ほら ここ・・・ 」
不意にムウが 胸の脇のジョイントに触れた
ビクッとしてしまい 赤面する
くすっと ムウが笑う
「 隙間がある・・・ ここが気になるのですね 」
紫龍は赤面して 黙ったまま頷いた
何だって俺は こんな真面目な局面で浮ついているんだ
駄目だ
駄目だ
冷静に・・・
鏡を見た
気が付くと ムウの瞳が見つめている
瞳の奥に 怪しい光がゆらめいている
その光に吸い寄せられ ぼうっとなったその時 温かいムウの手が華奢な紫龍の腰を優しく拘束した
「 ムウ・・・? 」
ムウは 後ろから紫龍のうなじに囁いた
「 どうしてあなたは こんなに私を狂わせるの ――― 」
ムウの温かい唇が うなじに触れる
電流が走ったように 紫龍は痺れた
「 あ 」
脚の力が抜け 地面に手をついて崩れ落ちる
紫龍が怪我をしないように ムウは彼を 優しく後ろから抱きすくめた
「 ムウ いけない 」
力が入らない
ムウの小宇宙が 麻酔のように紫龍を甘く痺れさせた
ここはムウの聖なる仕事場だ
こんなところで いけない ―――
「 あきらめなさい 」
ムウは 熱く耳元で囁く
「 あなたが悪いのですよ 」
「 あ ムウ・・・ 」
ムウは しなやかな動きで紫龍を地面に組み伏せた
「 本当に・・・・ いけない 」
「 いけないのは 私を狂わせる あなた 」
ムウの唇が 紫龍の唇をそっとふさぐ
「 ん・・・ 」
甘えたようなくぐもった声が 紫龍の喉から漏れた
ムウはくすっと笑った
「 ・・・本当に いけないと思ってる? 」
こんな事 駄目だ
聖衣を着たまま こんな事 ―――!
しかし いけないと思えば思う程 紫龍の体は裏腹に 熱くムウを求めはじめていた
「 来なさい 」
ムウは紫龍を抱きかかえ 自分の上に跨る様にさせた
両足の自由を奪われ 愛撫を受ける
聖衣を装着したままの手で 愛される異常な感覚に 戸惑いと悦びが紫龍を襲う
鏡には 聖衣をまとったままの自分が ムウにしがみついている
紅潮し 苦しげな表情は むしろとても扇情的だった
「 ムウ・・・やめ・・・ 」
甘く疼く快感が 聖衣に包まれた体を駆け巡る
あ・・・
ムウ・・・
ムウ・・・
こみ上げる愛しさに 思わず何度も名前を呼ぶ
「 ムウ・・・好きだ・・・ 」
応えるように ムウは 美しい笑顔で紫龍を見上げる
冷たい聖衣の指先が 熱くなった紫龍を責めたてる
聖衣の隔たりが もどかしい
直に あなたを抱きしめたい
「 あ・・・! 俺・・・もう・・・もう・・・! 」
「 紫龍・・・ 」
紫龍が 控えた声で悦びの悲鳴を上げ
オリハルコンの光の粒子と 紫龍の汗が キラキラと二人を包んだ ―――
気が付くと 紫龍はムウの腕の中にいた
「 紫龍 」
「 ん・・・ 」
「 どこでしたっけ 」
頭がぼんやりする
聖衣の修復の話のようだ
「 ん・・・ここだ・・・ 」
「 そうでしたね 」
ムウはそっと手を差し伸べ 隙間のある箇所を指示した紫龍の手を そのまま上から包んだ
温かいムウの小宇宙が 紫龍の手を通して聖衣へ伝わる
金色の光が広がり、聖衣が熱くなった
やわらかく ここちいい
紫龍はひと時の間 うっとりと光を見つめた
「 治りましたよ 」
「 エッ 」
キョトンとする紫龍の額に いたずらっぽくムウは口づけた
修復は あっという間だったのだ
聖衣を修復してもらえるまでには 大いなる努力(?)が必要だったのに
( やはり ムウに聖衣の修復を依頼するには 生半可な覚悟で臨んではいけないのだ・・・ )
甘くぼやける意識の中で 紫龍はそんなことを考えた
ミズたん 素敵な写真 ありがとうでしたv